Story

フォルテピアノへの道1
ピアノのある空間

ピアノのある空間が好きだ
ピアノが部屋に一台あるだけで
音が今にもこぼれ落ちそうな
見ているだけで何かが始まりそうな
魔法の木箱
眺めるだけでも美しい時間が流れる

母の代わりのように
小さい時からYAMAHAのアップライトがあったけど
真剣に弾くようになったのはいつの頃だろう
音楽学校に入って急にピアノが大きくなって
部屋を支配していたけど
それでも家族の一員となって
いろいろな感情が音と共に流れた

そんな私が「フォルテピアノ」に出会ったのは20世紀も終わりの頃
芸大の学食で親友とランチでもしていたのだろう
モーツァルトを弾く時にピアノだとなんだか重い感じがする
そんなことをきっと告白していたんだろうけれどその時の親友の行動は素早くて、
気づいたらフォルテピアノ部屋の前にいた

小島芳子先生の部屋の前だ
レッスンをされていたのだけど
そのままポーンと放り込まれて
そのまま扉は閉められた

芳子先生は優しくて
そんな風にあの日私の【フォルテピアノ道】は始まった

2000年の夏
フォルテピアノのマスタークラスがベルギーであって
芳子先生の兄弟子であるバルト先生(Bart Van Oort)に習うチャンスが来た

今では考えられないけど全て時差を気にしながらファックスを流したりしてコミュニケーションしていた
私はドイツリートの伴奏が大好きだからドイツへ行くつもりがあったのだけど
バルト先生が古城で弾くハイドンのソナタの2楽章
あのウィーンのピアノならではの
あの時代のあのクラフトマンシップ溢れる楽器の
あの弱音を聞いた時、心は決まった